私の研究と仕事
                                                 福山大学人間文化学部心理学科

                          青野篤子

 1970年代,ことばが信頼されない時代だったのでしょう。非言語的コミュニケーションの研究が流行ったのです。ミーハーな私は,パーソナル・スペースに興味をもち,卒論・修論とそれを続けましたね。そのときには,ただ単に「性差」として研究を行いましたが,薄々気づいていたのですね,男女の差を生み出すジェンダーの存在に・・・。それから20年後に,ジェンダー差は地位の差であるということを証明する(?)論文で博士号を取得しました。大学の教員として,心理学を教えることはすごく苦痛でした。というのは,心理学の教科書には母子関係がすごく強調されているからです。ボウルビィの愛着理論やハーローのアカゲザルの実験を紹介しながら,子どもにとって母親が絶対的な存在だと主張しています。そこで,教科書の分析を研究にしてしまいました。それから,ちまちまとジェンダー意識の調査をやっていたと思うのですが,一貫して,教育には関心がありました。そこで,もう一つの主要な研究領域はジェンダー・フリー保育となりました。子どもに自由に選ばせるとジェンダーに沿った選択をします。女の子が不得手なこと,男の子が不得手なことに挑戦できる,そんな機会を与える保育,というものを提案してみました。研究というより仕事ですが,ジェンダー心理学,フェミニスト心理学をいかに日本に広めていくか(大げさですが)考えて,本を書いたり,翻訳をしたりしました。これからもう少し研究や仕事ができるとすれば,若い人たちにフェミニスト的な考え方を伝えていきたいと思っています。

青野さんの研究者情報

Researchmap : http://researchmap.jp/read0036254
大学HP : http://rdbv.fukuyama-u.ac.jp/view/6XvIm/
研究室HP : http://aonolaboratory.jimdo.com/

 

私の研究活動

                                                             福山大学人間文化学部心理学科
                                                                                       赤澤 淳子

  学部・大学院時代に、まず研究テーマとして関心を持ったのは、 「性別役割」でした。意識の上では平等主義的になっている現代社会において、なぜ男女の性別役割行動が再生産され続けるのか、その疑問を解明することを目的とし研究に着手しました。その後、恋愛関係や夫婦関係という親密な二者関係における、性別役割行動と関係満足感との関連についての研究を進めてきました。最近は、親密な二者関係におけるダークサイドに焦点を当て、関係の中で行使される「暴力」に関する研究を行っています。具体的には、デートDVの規定要因や暴力によって引き起こされるダメージについて、ジェンダーおよび関係変数から検討しています。また、親子関係における虐待にも関心をもち、児童養護施設入所児におけるアッタチメントのDタイプに関する共同研究に着手しています。
   最近特に考えるようになったのは、「ただ研究するだけでなく、それをいかに実践に役立てるか」ということです。よって、ここ数年はDV被害者支援や児童養護施設入所児の学習支援に取り組んできました。後者の学習支援では、大学生にも参加してもらい、児童養護施設入所児への1対1の個別指導を昨年度から行っています。
   今後は、親子関係で行使される虐待と青年期におけるデートDVとの関連など、暴力間の関連について、生涯発達的な視点を導入して検討したいと考えています。また、暴力が行使される原因の検討だけでなく、暴力の予防や介入を視野に入れた研究に着手したいと考えております。

 

赤澤さんの研究者情報
https://researchmap.jp/read0046274/


保育者養成とジェンダー研究

                             山梨県立大学名誉教授・地域研究交流センター

                                                                                       池田政子

   45年も前、まだ「ジェンダー」という言葉も使われていなかった頃、何かというと“悪者”にされていた「働く母親」を卒論のテーマにして以来、ジェンダー視点で夫婦関係、セクシュアリティ形成などを研究してきましたが、山梨県立女子短期大学幼児教育科(現・山梨県立大学人間形成学科)という職場を得て、保育者になりたい若い女性たち、保育現場の先生方や、大学として8年間実施した「男女共同参画アドバイザー養成講座」を通じて世代も立場も違う大学外の人々と接したことは、自分の研究や仕事の原点になりました。
ジェンダー・フリー・バッシングの起る直前、文科省の「0歳からのジェンダー教育推進事業」に採用され(2001年度)、学科の垣根を越えた教員有志が学生たちとともに、子育て支援や保育の現場、男女共同参画社会づくりを進める人々と連携して、あまり注目されていなかった乳幼児期のジェンダー・バイアスの実態調査やアンチバイアスの保育プログラムの作成などを行い、『0歳からのジェンダー・フリー』(生活思想社、昨年重版刊行)として全国に発信しました。志を同じくする同僚たちに恵まれて、地域の方々とともに、大学として現場と連携した研究と実践活動ができたことは、とても幸せでした。その後、自校のジェンダー関連教育が保育者養成にどう影響しているかの検証も行いました。ここ数年は、教育学分野の方々に誘われ、教員養成課程でのジェンダー学習が、ジェンダー平等教育の現場実践にどうつながっているかを、卒業生のインタビューなどによって研究してきましたが、バイアスのない保育や教育の現場での実践の難しさをあらためて認識するにつけ、すべての保育者/教員養成課程でのジェンダー学習の必要性を痛感しています。一方で、現在も「保育とジェンダー」「ジェンダー論」という授業を担当していますが、世代差の大きい学生たちに、ジェンダー平等についてどんな言葉で伝えていくか、年々困難さも感じています。
もう一つ、山梨県立大学の地域貢献の一環として、地域の方々と協働して山梨の女性史を研究するプロジェクトを立ち上げて11年目に入りました。先輩女性の「聞き書き」を記録として残していく作業は、現在私たちの立っている場所が先を歩いたすべての女性の人生の集積であることを確認し、あとからくる女性たちに自分は今何ができるかを考える契機をくれます。その意味で、私たちより若い世代の方にこの作業をつなげていきたいと思っています。

池田さんの研究者情報

http://researchmap.jp/read0038219

私の研究活動
                 和光大学現代人間学部心理教育学科
                          いとうたけひこ

 和光大学で心理学を教えています。研究テーマは、PTG、テキストマイニング、平和などです。Takehiko Ito, Ph.D., is Professor of Psychology at Wako University in Tokyo. He received his doctoral degree from Tohoku University in Sendai. He is interested in positive psychology, critical psychology, and peace psychology. He likes doing research, traveling, wining and dining, and doing nothing (=wakeful rest).

 

E-mail: shimoebi@gmail.com

 

いとうさんの研究者情報
http://www.itotakehiko.com/ 

私の研究活動
                              文京学院大学人間学部
                                                                                  伊藤 裕子
  1960年代末から70年代は若者にとって激動の時代だった。“団塊の世代”からは1年遅れるが,高3の時が東大と東京教育大の入試が中止された年で,大学に入ったときは既に筑波移転が決まっていた。荒んだ時代,荒んだ大学生活だった。
   青年期特有のもがきのなかでようやく見つけたテーマが「女であること」だった。卒論のテーマが「戦後における役割観の変容」で,母親が「馬鹿だ,ちょんだ」といわれ,時には暴力まで振るわれながら夫につき従っている,その「女と男の関係」が一体どこから来るのか知りたかった。これが私のジェンダーとの出会いである。
   その後,青年期(これが一番長い),子育て期,そして今は中高年期と自分のライフサイクルに合わせたかのように取り組んできたが,根底にあるのはいつも「女と男の関係」で,差別や人権問題とも異なる,権力関係にあるのに“愛し合う”という何ともうまく説明のつかない関係だった。いまはもっぱら夫婦の関係に取り組んでいる。
   今,子育て期のデータをいじっていて,少なくとも十数年前に比べると男性が「私」の領域を大事にしているということがわかる。それが家庭であれ趣味であれ。若い女性の保守化が言われるが,雇用の流動化が彼女・彼らにどう影響しているのか,経済生活の変化が長いスパンでどのように個人の意識を変容させていくかを見ていきたい。

 

伊藤さんの研究者情報

https://researchmap.jp/read0039354

 

私の研究活動
                                 徳島大学保健管理・総合相談センター
                                                                 井ノ崎  敦子

 私は,学部時代は実験社会心理学を専攻し,大学院進学後に教育心理学,そして臨床心理学へと専攻を変更してきました。大学院に進学してからずっと関心を持ち続けているテーマは「親密性」です。修士論文では健康な親密性とは何かを追究しておりましたが,臨床で犯罪被害者支援に携わるようになってから,DV被害者支援に関心をもつようになりました。最初はDV被害を受けた女性が一時避難をする民間シェルターにボランティアとして活動させていただき,その後,配偶者暴力相談支援センターの心理職として働く機会を得,多くのDV被害を受けた女性の心理的支援をさせていただきました。こうした臨床経験と様々な関連文献から,DV被害からの心理的回復には,被害当事者がDVの問題性の本質を理解するとともに,互いの心理的回復を励まし合う場をつくることが必要であると思い立ちました。そこで試行錯誤の末,DV被害を受けた女性のための心理教育プログラムを独自に開発いたしました。現在も2か所のDVセンターと連携しながら現場に合わせた心理教育プログラムを実施し,その効果を検証しています。その他には,デートDV予防に関する共同研究や性的虐待被害などの性暴力被害に関する研究を行っています。これからも,臨床活動とそれに基づく研究活動を通して,女性に限らずあらゆる人が健全で豊かな親密性を獲得できることに貢献し続けたいと思います。

私の研究活動
                                                                            玉川大学文学部
                                                                                宇井  美代子

  比較的幼い頃から,「自分が男だったら,あの人が女だったら,違う生活を送っているのだろうなあ」と思っていたのが,ジェンダー研究に取り組み始めた契機でした。ジェンダーについて学び始めると,その人が意識していないところでも,性別がさまざまな場面でその人の行動に影響を与えていることが分かり,興味・関心がさらに高まりました。
  そんな中,私が大学院時代から取り組んでいるのは,男女平等か否かを判断する際に用いる判断基準である「男女平等の判断基準」についてです。男女平等の判断基準は多様で,重視する判断基準は個人によっても異なりますし,同一個人の中でも,職場での男女平等か家庭での男女平等かによって,重視する判断基準は変化します。これが男女平等や性差別について考えていくときの難しさを増す要因の一つとなっています。
  他には共同研究として,『援助交際』や買春,また,男性同士の恋愛を描いたボーイズラブ(BL)漫画におけるジェンダーについての検討を行ってきました。現在では,親密な関係における暴力であるIntimate Partner Violence(IPV)が深刻化する過程を検討しています。IPVの詳細を明らかにすることによって,予防教育に役立てていくことが目標です。
  さらに最近は,大学教育における概念マップの有効性や離婚後の共同養育というジェンダー研究以外のテーマの共同研究も行っているのですが,「男であること,女であること」を相対化する視点を提供してくれるジェンダー研究には取り組み続けていくように思います。


宇井さんの研究者情報

玉川大学
http://reap.tamagawa.ac.jp/ep/teacherProfileDisplay?skfplokaqd=bdBdbygyaqISE32M51SKxrRVXcGKYDb7S6ZTa5lo%2FMY%3D


私の研究活動 

                     四天王寺大学人文社会学部

                             上野淳子

 学部生、院生時代は達成動機づけ研究を行っていました。特にジェンダーの視点に立脚したものではなかったのですが、調査データを分析するうちに、「成功不安」に代表される女性を抑圧する力を実感し、強く興味をひかれるようになりました。その後、私自身のジェンダー=「女性」を意識せざるを得ない様々な出来事を公私ともに経験し(良いことも、悲惨なことも…)、本格的にジェンダー心理学の領域に足を踏み入れるようになりました。
ここ数年は、主に3種類の研究を行っています。まず、デートDV研究。親密な相手への暴力には、ジェンダーの力学と同時に、男性=加害者、女性=被害者と単純には断じられない複雑さがあり、コントロールする/されるという構図から加害と被害を捉えようと試みている最中です。次にキャリア意識に関する研究。仕事、結婚、出産といった将来設計にジェンダーがどう関わるか、どのようなキャリア教育が必要なのかを明らかにしたいと考えています。さらに、セクシュアリティ研究。LGBTという言葉を耳にする機会が格段に増え、同性婚の議論もなされるようになりましたが、ジェンダー二元論は未だ強固です。ジェンダーの多様性がどのように意識され、受け入れられるのか、そのためには何ができるのかあれこれ考えています。
 これまで目の前のことで手一杯でしたが、研究成果を日々の講義だけでなく、より広い社会に還元できるよう活動していければ、というのが今後の目標です。


上野さんの研究者情報
http://www.shitennoji.ac.jp/ibu/docs/guide/member/ueno.pdf


私の研究活動

                                                                                               駿河台大学心理学部 

                                                                                                                纓坂英子

 私の研究のスタートは日米間における個人主義と集団主義の研究でした。「個人主義的なアメリカ人と集団主義的な日本人」という言説が支配的でしたが、実証的研究を重ねても、日本人サンプルのデータは集団主義にも個人主義にも明確に分化せず、言説通りの結果が得られませんでした。そのため言説と実証のあいだの不一致を埋められずにいた時期が長かったと思います。その後は言語(日本語学習動機)、文化(ジェンダー)、心理学史(米国占領下の日本の心理学)が研究の柱ですが、自分の研究が心理学の殻に閉じこもることなく隣接諸科学の知見を取り入れ、学際的であることを心がけてきました。
 ジェンダーに関連する研究は、豪州のカルチュラルスタディーズの研究グループとともに学会発表しています。メディアに表れる性役割を、テレビ出演する性的マイノリティ-タレントの発言や、女性誌に散見さる家庭と仕事の両立も自立も目指さない「新専業主婦志向」を取り上げて質的分析を行いました。個人主義的な米国人と集団主義的な日本人、男らしさと女らしさの言説は、二項対立的で非対称的に扱われています。そして集団主義的な日本人と女らしさは、特殊な集団の特殊な文脈で語られる問題で、両者とも特定の集団やカテゴリーに時間を超えて固定的な本質を想定した文化本質主義が認められると思います。
 それらとは別に、ここ数年はゼミの学生達と宝塚を観劇しながら、ジェンダーについて一緒に考えています。

 

纓坂さんの研究者情報

駿河台大学HP
http://faculty.surugadai.ac.jp/sudhp/KgApp?kyoinId=ymiogeokggy

私の研究活動

                      神戸松蔭女子学院大学

                          土肥 伊都子
 小学時代の親友との交換日記に,大きくなったら心理学者になると記し,中学時代から,仕事と家庭の両立に悩み,高校時代,故島田一男先生が執筆されたカッパブックスの「女のこころ」シリーズを読み,将来は社会心理学者になろうと決心しました。大学院入試の英文読解対策のためにBem,S.L.の心理的両性具有性に関する雑誌論文を読み,ジェンダーという社会のあり方が,一人一人のパーソナリティにまで大きく影響を及ぼすことを知り,たいへん印象に残りました。それ以降ずっと,ジェンダー・パーソナリティを形作るものは何か,また,パーソナリティがジェンダー化することは,個人にどのような心理的影響を及ぼすのかについて研究しています。
 今進行中の研究の一つに,日本の家族関係のあり方が,パーソナリティをジェンダー化する原因になるのかを検討しているものがあります。日本の夫婦は戸籍も名字も財布も一緒で,家族あっての個人の考え方があり,個よりも関係性を重視するために,個人のパーソナリティがあまり問題にされません。それが個人単位でみた場合,パーソナリティがジェンダー化されることになるのだと考えます。また,パーソナリティのジェンダー化が,将来の結婚相手や結婚生活にまで及ぶことで,ジェンダーは維持されやすくなります。結婚は,夫婦がもたれ合うためにするものではなく,お互い一人でも生きられるけれど,二人でいると,よりハッピーになれるからするべきだと考えます。しばらくは,過熱に気をつけながらあくまでもクールに,家族とジェンダーの関わりについての研究を続けるつもりです。

 

土肥さんの研究者情報
http://acoffice.jp/kswhp/KgApp?kyoinId=ymisgsosggy

 

私の研究活動

 

                   滋賀大学国際センター

                         滑田明暢

 私は修士課程のときに家事分担の研究を始め、現在は、生活家事(就労による家計への貢献、家事、育児、介護など、生活に必要となる仕事)の調整過程に焦点を当てて研究をしています。
家事と聞いて、「どうして家事分担の研究をしているの?」と思われる方は多いかもしれません。現代の日本社会では、共働き世帯の増加なども含め、時々刻々と私たちの生活の形は移り変わってきています。そのなかで、私たちの生活家事はどのようなもので、それへの向き合い方にはどのようなものがあるのかを知りたい、と考えたことが、私が家事の研究を始めたきっかけでもあり、今も続けている動機の一つです。今後の生活家事の形を少しでも見通すことができる知識をつくることができれば、と考えています。
 一方で、家事分担の研究を進めて思考することは、ある個人が異なる見方や考え方と出会ったときにどのように対応できるのか、という課題を考えることにもなります。具体的には、それぞれ異なる価値観と経験を持ち寄って生活をともにするなかで、どのように調和した形を持続的に創り出すことができるのか、といった課題を考えることにつながります。現在私は、生活家事分担の形態だけでなく、夫婦の相互作用と公正さの感覚に焦点を当て、どのように個人は生活家事を維持、変化させるのか、うまく回していくためにどのような工夫、調整ができるのか、という研究の問いを探求することで、その課題を考えています。
 一個人としては、生活家事にかかわる議論は、生活家事を実践している人たちを快適にするものであってほしいと考えています。現時点では、どのような形であれ、その研究の知見にふれた人たちが、これまでとこれからの実践に思いを馳せ、より自分らしい形で生活家事の実践をすることができることに寄与する研究を実施したいと考えています。

私の研究活動           

                                                                 東京学芸大学名誉教授   

                                                                                  福富 護
 ジェンダー研究に関わるようになったのは、「国際女性学会(現在の国際ジェンダー学会)」への入会(1979.4)が大きな契機でした。翌年「The Feminine Mystique(女らしさの神話)」の著者ベティ・フリーダンの日本講演を舞台裏でお手伝いし、講演後に森英恵のブティックへ車でご案内したことが強烈な思い出として残っています。その後、「性の商品化」の研究で漫画やグラビアの内容分析、「単身赴任」が夫婦に及ぼす影響、「援助交際」の研究で女子高校生と成人男性の男女平等意識の背景要因の分析、「少女漫画」「ボーイズラブ(BL)」の内容分析等々を手掛けてきました。「らしさの心理学」(講談社現代新書)では、「男(女)らしさ」といった外枠で自分を律するのではなく、「自分らしさ」を主張して生きることの意義を強調したつもりです。S.L.ベムの「ジェンダーのレンズ」を翻訳したのは、ジェンダーというレンズ(眼鏡)を通して世の中を見ている限り本質が見えないというベムの主張に共感し、紹介したかったからです。こうした研究活動を通して、「ジェンダー」は心理学研究の対象でもありますが、それ以上に、一人の研究者としての「生きざま」に深く関与している問題であると認識するようになってきました。動詞として「ジェンダー」を考えるというR.K.アンガーの主張と密接に関連しています。男女の行動の違いに注目するだけでなく、行動そのものを現在進行形で見ようとする心理学があっても良いのではないでしょうか。不必要なジェンダーの囚われから解放された生き方を模索し続けたいと思っております。

 

福富さんの研究者情報
Researchmap : http://researchmap.jp/read0089788
Wikipedia : http:// ja.wikipedia.org/wiki/福富護

私の研究活動

          武庫川女子大学・神戸学院大学・神戸女学院大学・大手前大学
                                                                                松並知子

 私が最初にジェンダーに関心をもつようになったのは,大学卒業後,OLとして働き始めた頃でした。同じ大学を卒業した同級生の男性が海外出張へ行っているのを横目に見ながら,私は毎日ずっとお茶くみとコピーとりくらいしか仕事をもらえませんでした。「同じ学歴で同じ年なのにどうして?」と,女性であるというだけで,これほど期待されず,これほど待遇に差があることに愕然としました。その後,女性問題やジェンダーに関する本を読み漁り,このような構造にもっと多くの女性に気付いてもらい,問題の根深さを理解してもらうにはどうすればよいのかを考え始めました。
 その後,大学院に入学し,当初はジェンダーの国際比較をテーマにしていましたが,「女性が男性よりも自尊感情が低いのはなぜか?」「自信とは何か?」など,自己愛に対する疑問がふくらみ,その後は自己愛とジェンダーに関する研究を続けてきました。たとえばデートDVとの関連では,女性性にこだわり自分に自信がもてない女性は,ナルシストの男性に付け入られやすくDVの被害者になりやすいなど,自己愛はジェンダー問題と深く関連していると感じています。
 最近はキャリアカウンセラーの資格も取り,キャリア教育や働き方についても研究しています。多くの若い女性が男性に経済的に依存するのを当然のように思っている現状を見るにつけ,経済や金銭についても幼少期から教育する必要があると考えています。
 また研究手法についても試行錯誤を繰り返しており,統計分析を用いた調査研究だけでなく,インタビュー調査やテキスト分析などの質的手法を使うことにより,より多くの人の心に訴えるような研究ができるのではないかと思っています。

 

松並さんの研究者情報

http://researchmap.jp/matsunami_tomoko

 

 

私の研究活動
                                       神戸女子短期大学 非常勤講師
                                                               水澤 慶緒里

 毎年のようにノーベル賞受賞に日本中が沸く度、素直に喜べないひねくれ者である。素直になれない理由が、受賞者が常に男性であること。そして、若い頃からの長年にわたる研究が評価されていること。なぜなら、どちらも当てはまらない=私にはノーベル賞を受賞するチャンスがないからだ。
 若い頃は遊んでばかりで、勉強、研究を思い立ったのが十数年前。「若い」先輩、同期、後輩に囲まれ、「要求度‐裁量度‐支援度モデルにもとづく家事ストレス、育児ストレスの研究」で修士号を取得。家事ストレスは周囲のサポートで緩和されるものの、育児ストレスは緩和されないという面白い結果が得られた。お蔭で遅まきながら研究の楽しさに目覚め、その後は成人の過剰適応の研究にまい進。過剰適応は、子ども用には尺度があって研究が集積されている一方、大人では、高度経済成長期以降問題視されてきたにもかかわらず、計量的実証研究が進んでいない=研究のしがいがあると信じている。
 それから、2014年度に頂いたジェンダー研究会シードマネー研究では、女性の方が男性より、理想自己と現実自己の差が大きい=女性の方が不適応傾向が高い=女は辛いよという結果が出た。詳細は、論文で発表します=宣言してしまった!
 今後の課題としては、楽しいだけではなく社会に役立つ研究をしていくことである。そうしたら、ひょっとしたらノーベル賞はムリでも、イグノーベル賞を狙えるかも、などと野望を持っていそしんでおります。

 

私の研究活動―――学ぶ歓びや楽しみなど

                                     東京大学先端科学技術研究センター協力研究員  
                                   早稲田大学ジェンダー研究所招聘研究員
                                   現代QOL研究所主席研究員・教育研究局長
                                                                        望月 雅和
 私には、学ぶ歓びや楽しみを通して学術に、研究の世界へと進んできたという気持ちがあり、そのようなことを書いてみたい。今でも驚きなのは、学術のもつ可能性、広がり、つながりの素晴らしさで、大学、学会、研究教育の機関、そして企業や家族から人間の内面にまで至る奥深さである。
 今、狭い意味での研究の対象を述べれば、教育の原理や実践、社会福祉、実践的な高等教育やキャリア教育、母と子ども、保育者養成(保育や幼稚園も含む)、経営倫理や思想史など学際的な範囲に及ぶ。しかし、これらも固定的というより、既存の研究成果のみならず、様々な人との対話、現場、学校や組織のカリキュラム編成、挑戦的な構想、有形無形の作用の中で、深化や変化が起こる。例えば――、優れた先生のお話しを拝聴し、創造的な作品に触れたりして、新しい世界や人間観に触れることは、私にとって代え難い可能性を広げる契機となってくれる。
 これら学際領域にあって、ジェンダー領域では、様々な研究上の発見や交流や学術協力、インスピレーションを得てきた。例えば、日本の心理学領域で最も歴史のある公益社団法人日本心理学会にある本ジェンダー研究会も、通説の心理学研究のみならず、他領域間の横断、既存のフレームから新機軸を構想するアクティブな動きに魅力を感じてきた。
 一歩ずつ学びながら、これからも歓びや楽しみが広がっていけばと願っている。