2013年 日本心理学会 公開研究集会「海外におけるジェンダーをめぐる日常」

神前裕子氏「ドイツとジェンダー」

 私は今年の6月まで約1年間ドイツのデュッセルドルフで暮らしていた。夫の転勤によるものであり、1年間という短期間の滞在であったが、ドイツと日本の文化の違いをいろいろと感じ、貴重な経験ができたと思っている。この公開研究集会では、ジェンダーの視点から、主にドイツにおける出産・子育て・教育について述べた。ドイツでは日本と同様に少子高齢化が進んでいること、また離婚が増加し、いわゆるパッチワークファミリーと言われる子連れでの再婚による親と異父母きょうだいで構成されるつぎはぎのパッチワークのような家族が珍しくないことなどを紹介した。現地で知り合ったドイツ人や数十年ドイツに住んでいる日本人からの話によれば、幼稚園や保育園においても、パッチワークファミリーで育つ子どもが多くなっており、精神的ケアが必要になっていると現状もあるという。ドイツと日本の違いとして、妊娠・出産に関しては、ドイツでは妊娠葛藤相談所として、妊娠をしたが出産を迷っている女性の相談施設があること、出産を決断しても育てることができない場合には施設の紹介や里子制度などが進んでいることなども述べた。また、児童手当は日本に比べて手厚く、育児休暇制度を男性も取ることを推進するために、両親手当という制度が開始されたことなどについても紹介した。

滑田明暢氏「英国の生活で感じたジェンダー/non-ジェンダー」

 私は、2007年10月から約1年間、英国のランカスター大学の社会心理学修士課程で学び、その後も英国で開かれる学会への参加と短期の在留研究活動をおこなってきました。その英国滞在のなかでもジェンダーに関わると感じた経験をここでは紹介します。

 英国での研究活動では一般に、研究課題がその土地の風土や歴史に根差していることを感じていましたが、ジェンダー研究でも同じことがいえると感じました。例えば、刑務所における女性の出産や、ストーキングを研究課題とする発表が英国での学会でみられたことです。ナラティヴや法と心理領域の学会にてそれらを見聞きしましたので、さまざまな領域でジェンダーに関わる問題が扱われていることも再認識しました。

 日常的なことにおいて最も印象に残ったことは、「a fairy」という言葉でした。ある雑談のなかで家事について話をしているときに出てきた言葉なのですが、最初に聞いたときには「a fairy?(フェアリー・・、妖精?)」といったようにあまりピンときませんでした。「なんのことだろう」と思いながら話を進めていると、「私の家にはfairy(妖精)がいて、私の彼(パートナー)はその妖精がお皿を片付けてくれると思っている」、つまり「(自分がやらなくても)誰かがやってくれると思っている」とのことでした。一方で料理のすべてを担当している男性にも出会っていたため、家事については多様な実践の存在を感じた滞在でした。

土肥伊都子氏「Melbourneにおいて感じたジェンダー状況」

  筆者は2011年度、大学からの長期研修として渡豪し、日本特有のジェンダー事情を反映させた研究をスタートさせた。そこで、研究集会では、筆者の研究に関連が深いと思われる豪国の事情を中心に発表した。まず、豪国は多民族社会であるためか、個人の生活も個性も様々であることを社会全体が受け容れている。そしてその傾向はジェンダーにも共通し、画一化を押し付けることも少ない。特に学校で女子にも自己主張の必要性を教えこむせいか、日本に比べて女性の強さを感じることが多かった。次に夫婦関係については、常に恋愛関係を維持したいと考える気持ちは強いが、法的に結婚するメリットが日本ほどないため、半分のカップルは事実婚である。そして、ひとたび恋愛関係が冷めてしまうと別離する傾向も強い。ただし、単親家族になっても日本ほど生活に困らないセーフティ・ネットがある。対して日本は、お互いの恋愛感情だけに基づいた“純粋な”男女関係をもちづらく、結婚して夫婦の役割に依存せざるをえない点が特徴的であり、これが日本特有のジェンダーを培っているのではないかと感じた。