「シートマネーを受賞して」

                       第6回(2016年度)受賞

                              原 健之

 シードマネーをいただき,研究活動を進めております。貴重な機会を得ることができ,本当に幸せです。
 私は,ワーク・ファミリー・バランスの一視点であります仕事役割と家庭役割の間で生じる葛藤の一形態であるワーク・ファミリー・コンフリクトを低下させることに注目しています。乳幼児を持つ父母はコンフリクトが特に高まりやすく,低下させるために必要な対処行動についてストレス・モデルに基づき研究をしていました。
対処行動以外にも最近では,仕事など一つの役割を担うことにより,家庭といった他の役割の質が高まるワーク・ファミリー・エンリッチメントというポジティブな概念がコンフリクトを低下させられることが米国で少数ながら,報告されており,現在はこのことへの関心があります。
 わが国ではエンリッチメント研究が十分ではなく,尺度化もされていないことから現在は,日本語版エンリッチメント尺度を作成しています。エンリッチメントの詳細な検討をすることにより,必要な心理的要因であることを示していきたいと考えています。その一つとして,乳幼児を持つ父母に生じているエンリッチメントはコンフリクトを低下させられるのか,という研究についてシードマネーを使わせていただき検討します。
 研究者として歩んでいきたいと思っている中でシードマネーをいただけたことは,本当に幸せなことです。研究視点だけではなく,研究者としての姿勢も意識しながら,研究に励んでいきます。まだまだ未熟者ですので,ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

                                                                  第4回(2014年度)受賞

                                                                                   水澤 慶緒里

 

「シードマネー受賞後の研究活動について」


   この度はシードマネーを頂き、誠にありがとうございました。私は成人の過剰適応を研究テーマにしています。採択後の活動としてはまず、「過剰適応傾向者のジェンダーにかかわる認知の偏り―文章完成法テストのジェンダー領域に着目して―」として、日本心理学会第79回大会のジェンダー部門でポスター発表を致しました。
   他には、青野篤子先生編著(2016)の『アクティブラーニングで学ぶジェンダー』(ミネルヴァ書房)で、第5章「精神疾患とジェンダー・バイアス―摂食障害はなぜ女性に多いのか」を分担執筆させて頂きました。ここでは、患者の9割が女性といわれる摂食障害の原因の一つとして、過剰適応との関連も示しました。私は、過剰適応へのなりやすさを測定する、成人の過剰適応傾向尺度(OATSAS)を作成していますが(水澤,2014)、過剰適応傾向と、過食、浄化行動者に共通する傾向とは重なる所が多く見られます。
   このように、ジェンダーと過剰適応には深いつながりが考えられるにもかかわらず、つまびらかに検討されてきていません。そこで、次なる研究としては、過剰適応傾向が高い女性は更年期障害様症状が強いという仮説を立て、現在データを収集中です。それと同時に、シードマネーを頂いた、過剰適応傾向者が持つ女性像、男性像研究を論文にし、それを盛り込んだ博士論文を完成させる所存です。
   年齢、経歴的に、助成金とは無縁な研究生活でした。今回のシードマネーへの感謝の思いは忘れません。これからも、この気持ちを見える形にしてゆきたいと思います。

                                                                第3回(2013年度)受賞

                            増井 秀樹

<個人的な研究動機>
 「男性はもっと家事や育児に参加するべきだ」と思っていた。しかし、

次第に「そういっている自分は何者なのか」「自分だけ安全圏に立って他

の男性を批判しているのではないか」「家事・育児に参加するべきだと

思っているが本当にできるのか」というような問いが芽生えてきた。つまり、時間が経つにつれて一般的、社会的な問題から自分も関与する実践的な問題に徐々に変わってきているように感じている。そう思うようになってから、男性が家事・育児に参加する「まで」ではなく、参加した「後」の家庭のことが知りたいと思うようになった。

 

<関心領域・研究>
 実際に男性が家事・育児に携わると家庭では何が起こるのか、「夫婦2人で」家事や育児に

取り組む際にどのような難しさがあり、特に男性は何を感じているのかといった問題に関心がある。現在は父親と母親の意識の違いがあらわれやすい、妊娠期から授乳期の父親を対象にインタビュー調査を実施している。パートナーの話も聞き、「関係性の中の父親」を描くことを目指している。
 理論面では、従来の研究が「家事・育児に参加しない男性を批判するだけにとどまっているのではないか」「理念や概念が一人歩きしてしまい、具体的な経験や現象と乖離してしまっているのではないか」という観点に基づいて先行研究を批判的に捉え直す作業を行っている。

 

<社会とのかかわり>
 2014年夏から父親による父親の支援組織Fathering Japan Kansai(FJK)にインターン

シップとして参入し、父親の生の声を聞いたり、父親支援の現場にかかわったりしている。

「シードマネー受賞後の研究活動について」

                                                 第2回(2012年度)受賞

                                    滑田 明暢

 私は、2012年度に第2回シードマネーの助成をいただき、研究活動をすすめさせていただきました。研究の題目は、「家庭内役割の実践における心理的調整過程の記述:性別役割分業意識と夫婦間の相互作用との関連に焦点を当てて」でした。質問紙調査とインタビュー調査の結果から、夫婦の相互調整過程を、これから起こりうることを展望して互いに考えを共有しながら準備をする形と、夫婦のどちらかが依頼や申し出をおこなうことでその実践の交渉がおこなわれる形とに整理するに至りました。
 その後は分析と調査を継続し、夫婦の相互作用と実際の生活家事遂行(就労による家計への貢献や家事、育児、介護など、生活に必要となる仕事)との関係およびその意味づけにも焦点を当てて検討をおこなっています。まだまだ探究の途上ではありますが、同一に見える生活家事の形態に対しても、楽しく遂行できている時期と改善したいと感じながら遂行をおこなう時期があることに焦点を当て、準備の時期を経てその楽しい時期から改善したいと感じる時期に至る移行、そして、その改善したいと感じているなかでの心理的、実践的な対応の流れについて理解を進める作業を進めております。
 その多様性を捉えながらも一定の類型による理解をすることを検討上の目標とし、主な当事者として生活家事を関与したことがない人々にもその経験が理解できるような知見づくりをめざして研究を続けてきました。日常生活における相互作用をより整理された形で理解し、性別役割などの固定化された枠組みではなく個人の自己決定による生活家事への参加の実現に貢献するため、できるかぎりはやく実のある論文としてその成果をご報告できるように励んでまいりたいと考えております。これからも、ご指導ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 また、こうして研究活動を継続、展開できるのも、シードマネーによって育てていただいたこと、さらには研究に参加いただいた皆様の協力があったからこそと感じております。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。



シードマネー受賞後の研究活動について

                                                           第1回(2011年度)受賞

                              武知 優子

 私の研究テーマは、音楽・音楽教育とジェンダーであり、例えば楽器に対するジェンダー・ステレオタイプや、子どもの音楽活動、音楽専攻卒業生についての研究をおこなってきました。シードマネー採択研究は、音楽家を志すプロセスにジェンダーが及ぼす影響を、インタビュー調査をもとに検討することでした。語りの中には、音楽家を志すにあたっての覚悟、稼得責任、将来の見通しに関してジェンダーと関わりの深い語りが頻出しました。この分析結果は、博士論文の一部や日本心理学会第76回大会において報告させていただきました。まだまだ研究の蓄積が進んでいないジェンダーと音楽教育の分野ですが、日本音楽教育学会の機関誌「音楽教育実践ジャーナルVol. 11 (1)」において、「音楽教育とジェンダー」が特集されました。日本の音楽教育界において、このような特集が組まれたこと自体、胸高まる思いでした。是非とも何か投稿をと意気込んでいたら、学会より掲載依頼を受け、音楽教育と小学生の音楽活動にみるジェンダーについて書かせていただきました。声の性差とその扱われ方など、音楽教育に特徴的なジェンダーの問題もあれば、他の教科・領域と共通するテーマも含まれています。研究が少なく概観しづらい、ジェンダーと音楽教育の多側面について、効率よく会員の皆様にも知っていただける資料かと思います。今後も、音楽・音楽教育を、ジェンダーという視点をもって考えていく―― これを研究の柱としたいと思います。


武知さんの研究者情報
ReaD URL: http://researchmap.jp/read0102409/